電験三種、2022年度の試験が年2回へ|制度変更について現状まとめ
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電験三種(第三種電気主任技術者)の受験チャンスが年2回へ
電気業界を支える資格のうちの一つである第三種電気主任技術者、通称「電験三種」は、国家資格です。
電験三種は学科試験によって選考が行われるのですが、この学科試験のあり方が2022年度より変更されることが決定しました。
この変更を行うことが決定された理由は何なのか、その理由をどのように捉えるべきか、試験制度はどのようになるのか、また試験の方式が変更することによるメリット・デメリットなど、「新しい電験三種」の試験制度とその背景について解説していきます。
制度変更の背景
電験三種とは、「電気主任技術者第三種」の略称です。
この上位資格として、電験二種(電気主任技術者第二種)と電験一種(電気主任技術者第一種)があります。
これらの資格は、「扱える電力の大きさ」によって明確に区分されています。
なお電験三種(電気主任技術者第三種)では、電圧が50,000ボルト未満の電気工作物を扱うことが可能です。
そしてこの“事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安の監督この工事の監督・維持・運用”を行います。引用:e-GOV「電気事業法第43条」
なお、電験三種(電気主任技術者第三種)の試験は、学科試験だけです。実技試験はありません。
電気主任技術者としばしば混同される電気工事士の試験の場合は実技試験がありますが、電験三種(電気主任技術者第三種)の場合は、学科試験をパスするだけで資格取得ができます。
長らく試験の制度に変更がなかった電験三種(電気主任技術者第三種)ですが、その試験内容が2022年度から大きく変わることになりました。
詳しくは後述しますが、これまでよりも受験しやすい試験制度へと変わったと考えてよいでしょう。
変更の理由についてまずは解説します。
※以下では、電験主任技術者第三種は「電験三種」と略します。
一番の理由は電気主任技術者不足
電験三種の試験の方式が変わったもっとも大きな理由として、「電気主任技術者の数の不足」が挙げられます。
2020年の段階ですでに、需要が供給をわずかに上回る状況になっています。
将来的にこの差は大きくなると予想されており、2030年には「供給が需要をはるかに上回り、2000人程度が不足するようになる」と見込まれています。
これは全体の10パーセントを超える数字です。
電気主任技術者の数は、かつては需要よりも供給が多い状態でした。
しかし2015年にこの2つが釣り合い、それ以降は需要が供給を上回っています。
特に供給数は2020年をピークに右肩下がりになると予想されています。
対して需要数は右肩上がりに増加していくと予想されているため、このような電気主任技術者不足の問題が起きるのです。
なお、自家用電気工作物の設置件数は年々増加傾向にあります。事故件数は基本的には右肩下がりの傾向を見せていますが、それでも年間で500件程度は発生しています。
これらの保安を担う電気主任技術者のニーズは今後も絶えることがありません。
このような状況を鑑みて、「電気の保安・監督に必須の電気主任技術者の人数を増やそう」という意図の元で、今回の試験制度変更が行われたと考えられています。
出典(経済産業省):1-電気保安人材の持続可能な確保・活用に向けた制度のあり方について『1.電気保安人材の確保に係る現状認識』
なぜ電気主任技術者は不足しているのか
では、そもそもなぜ電気主任技術者が不足するようになったのでしょうか。
これには大きく下記の4つが考えられます。
1. 資格保持者の高齢化
2. 電験三種を取得しても収入につながりにくいと考えられている
3. 知名度の問題
4. 電気設備が増加傾向にある
それぞれみていきましょう。
1. 資格保持者の高齢化
電験を突破・資格を保持している人を年齢で区切っていくと、実にそのうちの60パーセント近くが50歳以上であるというデータがあります。
年齢を4歳刻み(19歳まで及び60歳以上を除く)で見た場合、60歳未満の層はいずれも資格保持者が20000人程度となっていますが、60歳~69歳では60000人程度となっています。
70歳以上の層も非常に厚く、資格保持者が高齢化しているのがわかります。
ちなみにここでは「電験三種」を取り上げていますが、電験一種や電験二種はこの傾向がより顕著です。
2. 電験三種を取得しても収入につながりにくいと考えられている
「どの会社で働くか」「どんな待遇で働くか」等によって電験三種保持者の年収は変わりますが、350万円~550万円程度がボリュームゾーンだと考えられています。
しかし基本的には電験三種は「勉強しなければとれない資格」です。令和3年の合格率は11.5パーセントと低く、特に「理論」の科目においては10.4パーセントと非常に低い値になっていました。
このように電験三種の場合、「勉強しなければ取れず、資格難易度も高い難関資格であるにも関わらず、年収がそれほど高くない」という現実があります。
このことから「わざわざ電験三種を取得しなくても……」という層が増えたのだと考えられます。
しかし電験三種を持っていれば就職・転職に有利です。
また「監督・保安を主な業務とするため、体力がなくなっていく世代であっても働き続けられる」という特性を有することから、定年退職後でも活躍できる資格でもあります。
3. 知名度の問題
少し古いデータではありますが、財団法人電気技術者試験センターが電験に合格した19,216人を対象としてとった調査結果があります。
そのなかで「社会的地位に関してどう思うか」の項目については、全体の36.5パーセントが「評価は高い」としています。
しかし一方では、「待遇に関して自由に意見を書け」とした項目で、全体の14.1パーセント(電験三種合格者に限っていえば13.0パーセント)が、「認知度が低い」を挙げています。
社会的地位が高いと認識している人が多くても、認知度が低ければ、そもそも電験を受けようとする人を確保できません。
また、「自分自身は電験について知っているが、特に知識のない業界外の人はその必要性を知らないので社会的ステータスが低いようにみられる」ということで、資格の必要性を感じにくいと感じる人もいるのではないでしょうか。
4. 電気設備が増加傾向にある
また、「電気設備が増加傾向にあること」も挙げられます。自家用電気工作物は毎年約0.6パーセントずつ増加しています。
ゆるやかではあるものの右肩上がりのグラフとなっていて、今後もこの傾向は続いていくものと思われます。特に高圧の業務ビルの伸びが大きく、今後も電気主任技術者のニーズは絶えることがありません。
「電験の資格保持者は高齢化していっているのに、電気工作物は増えていく」という状態であるため、電気主任技術者の不足がみられるわけです。
出典:経済産業省産業保安グループ電力安全課「電気保安体制を巡る現状と課題」
電気主任技術者を増やすために
このような状況を打破するために、国を挙げて電気主任技術者を増やすための試みがなされています。
入職者増加への取り組みと案
たとえば、上記で挙げた「認知度の問題」を解消するために、ポータルサイトが解説されたり、広報事業が検討されたりしました。
また、新型コロナウイルス(COVID-19)の流行下では特に重要とされる「オンライン学習制度」の導入に向けても積極的な動きがみられました。
科目別合格制度と試験回数
ただ、もっとも大きな変更は、「電験試験の様式の変更」でしょう。
旧制度では、電験三種は「1年に1回のみ」「受験日は選択不可」「マークシート式」と決められていました。
しかし新制度では、「1年に2回の実施」「受験日も選択可」「マークシート式もしくはCBT方式(CBT方式については後述します)」となりました。
電験三種には、「科目合格制度」があります。
科目合格制度というのは、「複数の試験科目から成り立つ試験において、1つの科目に合格すればその判定は一定期間持続する。
1度にすべての科目に合格しなくても、定められた期間中にすべての科目で合格判定を得れば資格を与える」という制度です。
電験三種の場合、「理論」「電力」「法規」「機械」の4科目から成ります。そして、1度合格した科目は2年間の間合格判定が維持されます。
つまり、
1. 2018年に「電力」に合格
2. 2019年に「法規」「理論」に合格
3. 2020年に「機械」に合格
とすれば、晴れて電験三種を取得できるということです。
今回の試験制度改定でも、「1度合格した科目の合格判定が維持される期間」については変更はありませんでした。
しかし「1年に1回しか実施されていなかった試験」が「1年に2回の実施」になったことにより、試験を受けられるチャンスがちょうど2倍になったのです。
つまり今後は、下記のように電験三種を取得できるようになるわけです。
1. 2022年の4月に「法規」に合格
2. 2022年の8月に「電気」に合格
3. 2023年の4月に「機械」に合格
4. 2023年の8月に「理論」に合格
※上記の試験日程は、例です。実際の試験日程は、試験団体のホームページで確認してください。
CBT試験方式について
CBT試験方式は、2023年から実施の予定であるとされています。
CBT試験のCBTとは、“Computer Based Testing”の略称です。ごく簡単にいえば、「コンピューターを利用して行う試験」です。
パソコンのキーボードなどを使って答えを打ち込んでいくもので、1990年ごろから日本でもみられるようになりました。
従来のマークシート方式とは異なり、「決められた試験会場に行かなくても、試験日時や試験会場を選んで受験ができる」というメリットがあります。
ちなみにこれは感染症拡大防止との相性も良いため、この視点からも導入が検討されたという背景があります。
試験制度変更によるメリットとデメリット
では、試験制度が変更になったことによって、発生するであろうメリットとデメリットはどのようなものなのでしょうか。
こちらについて解説していきます。
メリット
1. 科目合格による突破が狙いやすい
試験が1年に2回実施されるようになることで、単純に試験を受けられる回数が2倍になります。
このため、科目合格を重ねることによって試験を突破する…というやり方がとりやすくなりました。
場合によっては、「1科目ずつ集中して勉強する」という戦略もとれるようになります。
2. 最短半年で資格を得られる
今までは1年に1回だけの試験でしたが、2回になることで、最短であれば半年で資格を得られるようになりました。
電験三種はたしかに難易度の高い資格ではありますが、少ないながらも、「1回の試験で4科目すべて合格した」という人も存在します。
非常に勉強熱心な人ならば、短い期間で資格を取得できるようになったのも大きなメリットです。
3. 都合がつけやすい
CBT試験制度が導入されれば、ある程度自分の都合に合わせて試験を受けることができるようになります。
そのため、物理的にも試験を受けやすくなるでしょう。
特に「仕事をしながら試験に挑戦する」という人にとっては、これは大きなメリットです。
デメリット
1. 自己採点が難しい
ペーパー式の試験とは異なり、CBT方式ではパソコン上で答えることになるため「問題用紙」が存在しません。
このためこれを持ち帰ることができず、自己採点ができません。
電験三種では「CBT方式・ペーパー方式の選択式」のスタイルをとっているのでペーパー方式を選ぶことで回避できますが、CBT方式のメリットを捨てることともつながりますので、よく考えて選びましょう。
2. モチベーションの低下につながる可能性がある
試験回数が増えることにより、「1年に2回も受けられるチャンスがあるから、今回は感触を見るだけでもいいかも」「今は忙しいから、来期でチャレンジすればいい」などの気持ちがわいてくる可能性があります。
試験回数が増えたことで「勉強する意欲」が長続きせずに、モチベーションが低下してしまう人もいるでしょう。
2022年度受験に向けた試験対策
2022年から電験三種の試験制度が変わりますが、これは「試験内容が易しくなった」とはイコールではありません。
電験三種が難易度の高い試験であることには変わりがないのです。
そのため、講座などを受けて勉強をしていくやり方が効率的です。講座を受けることでわからない部分は質問をしたりすることも可能なため、学習につまずくことなくモチベーションを保ちながら資格取得を目指すことができます。
講座の種類はさまざまですが、科目別に講座を受けるスタイルもおすすめです。
科目別の場合は「すでに合格した科目の勉強は省ける」「自分の苦手な科目だけを勉強する」ということも可能だからです。実際、電験三種を受ける人のなかには、「電気は得意だが法規は苦手」などのような人も珍しくはありません。
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まとめ
今回の試験制度の改定は、受験生にとってメリットの大きいものだといえるでしょう。
試験回数が増えることで、科目別合格が狙いやすくなったのは非常に大きなメリットです。ただし、受験機会が増えただけで、有資格者に求められるレベルは現在と同じであり、難関資格であることは変わりありません。そのため、受験対策講座などをうまく活用して、試験突破を目指しましょう!
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